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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)170号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 引用例に審決認定の油類精製法が記載されていること、この方法においては、その第一工程において乳化剤(界面活性剤)を用いることが要件となつていることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第三号証によれば、右の界面活性剤を用いる意義について、引用例は、油類の精製法として、従来、アルカリ化合物を加え、この混合物を吸着剤で処理し、濾過し、次いで高真空のもとで水蒸気蒸留する方法があるが、この従来法では、除去される脂肪酸とともに必要成分であるグリセリドまでもケン化されて失われて、工程の経済性に極めて大きな影響を与える不利益があつたこと、このグリセリドのケン化を避けるために、原油の精製に酸類あるいは酸性塩類を精製剤として用いる方法が提唱されているが、この方法においては、液状油脂と精製剤との接触時間が短いと不純物を十分に除去することは難かしく、機械的な攪拌では反応を必要な程度まで速めるに不十分であり、実用的な処理時間内で処理を完結するためには、極めて大過剰の精製剤を用い、同時に強力な機械的攪拌を行うことが必要であつたこと、この欠点を除去するため、「精製剤をグリセリド中にコロイド状に分散させ、分散相に精製剤を含むエマルジヨンを形成させれば、精製においてかなり少量の酸類もしくは酸性塩類の使用で、しかも短い接触時間ですむこと……エマルジヨンは、適当な界面活性剤を用いれば形成させ、維持させることができる(甲第三号証訳文三頁一ないし五行)ことの新しい知見に基づき、特許請求の範囲第一項の「精製を必要とする油脂を、乳化剤と酸または酸性塩の水溶液からなる混和物と十分混合し、次で不純物を除去することからなる油脂の精製法」及びいずれも乳化剤(界面活性剤)を使用する同第二項ないし第一二項の油脂の精製法並びに同第一三、一四項の右方法により精製された油脂の発明を完成させたことが説明されていると認められる。引用例の右説明によれば、引用例記載の発明は、適当な界面活性剤を用いて精製すべき油脂と酸又は酸性塩の水溶液にエマルジヨンを形成させ維持させることにその発明としての本質があり、これによつて、従来法の「極めて大過剰の精製剤を用い、同時に強力な機械的攪拌を行わない限り、実用的な処理時間内で処理を完結することは絶望的であつた」(甲第三号証訳文二頁一八ないし二〇行)との欠点を解消する効果を奏するものであることが認められる。したがつて「同発明の方法においても、油とリン酸との良好な接触を求めないならば、また、仮りに他の代替処理たとえば強力な攪拌処理をなすならば、界面活性剤を用いずに実施できることは自明である」との被告主張(被告の反論1(一))は、引用例記載の発明における界面活性剤の意義を無視もしくは誤認するものであつて到底首肯することができない。

一方、本願発明の要旨がその特許請求の範囲に記載されたとおりであることは当事者間に争いがなく、右本願発明の要旨と成立に争いのない甲第二及び第四号証により認められるところの本願明細書の発明の詳細な説明の記載とくにその実施例の記載によれば、本願発明は、その特許請求の範囲に記載された「パーム核油、ヤシ油等などのパーム油類原油にリン酸を加えて攪拌処理する第一工程」に続けてその第二、第三工程を順次連続的に行うことにより、優れた品質の製品を得ることができるパーム油類の原油の精製法であり、右第一工程においてはもとより第二、第三工程においても界面活性剤の使用は考えられておらず、界面活性剤を使用しなくとも所期の精製効果を挙げることが可能な方法が開示されていることが認められる。被告は、本願発明においても界面活性剤の使用は許容されている趣旨の主張をするが(被告の反論1(一))、その使用を不要とする効果を奏する発明を他の発明と対比するに当たつて、これを使用することを仮定することが許されないことは明らかであるから、被告の右主張は失当である。

以上認定の事実によれば、界面活性剤の使用によつて精製効果を挙げることをその本質とする引用例記載の発明の第一工程と、このような界面活性剤の使用なしに必須工程としての第二、第三工程と組合せて精製効果を挙げる本願発明の第一工程とは、油の精製法を構成する工程としてその処理手段を異にする別異の工程というべきであるから、「界面活性剤の有無は両発明の目的達成上では本質的差異になるとは解されず、」との審決の認定は誤つているといわざるを得ない。

2 次に、第二工程についてみるに、本願発明では、油が実質的に脱色されない白土処理と規定されているのに対し、引用例にはこのような限定がない点で両者が相違することは当事者間に争いがない。そして、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明中には、「その後温度をあげつつ白土を加え、一〇〇度C附近で一定時間保持する。この保持時間に特別の制限はないが、作業その他の面から通常五乃至三〇分程度の間で選ばれる。次いで、常法により白土が除去されるが、この時の油は白土処理がなされているにもかかわらず、原油と殆ど同一の色相である。」(甲第二号証本願特許公報三欄一ないし七行)との記載があり、また、実施例における白土処理時間がいずれも一五分であり、その場合、主色素であるベータカロチンの脱色がほとんど行われていないことが認められ、成立に争いのない甲第五号証によれば、本願発明の実施例に準じて行われた実験によつても白土処理時間を一五分又は三〇分とした場合、原油と比較すれば脱色はされているものの水蒸気蒸留を経た精製油と比較すれば実質的に脱色されていないことが認められる。一方、前掲甲第三号証によれば、引用例において白土処理工程は色素成立の除去を目的としていることは明らかであり、その白土処理工程についての「次で一五部のフラー土を混合し、温度を九四度Cに上げ、数時間以上にわたつて攪拌を続けた。この熱い混合物を次いで濾過した。濾液は清澄であつた。」との記載によれば、右工程で実質的に脱色が行われるために数時間以上の処理時間を要したことが認められる。

右認定の事実によると、本願発明の実質的に脱色されない白土処理を行う第二工程と引用例の実質的に脱色を生じさせる白土処理を行う第二工程とでは、その処理時間に差異があり、本願発明は引用例記載の発明に比し処理時間の短縮という効果を奏し得る点で実質的に相違すると認められ、審決が第二工程の白土処理で用いる白土の量及び温度条件において両発明に差異はないことのみを理由に、処理時間の長短に触れることなしに両発明の第二工程に差異はないとしたことは事実を誤認したものといわざるを得ない。被告は、本願特許請求の範囲に処理時間が具体的に記載されていないこと等を理由にその処理時間は五ないし三〇分に限定されないから、処理時間においても両発明の間に明確な差異は認められないと主張する(被告の反論1(二))が、本願明細書の発明の詳細な説明の項の前記引用個所及び実施例の記載に照らし、その特許請求の範囲の「油が実質的に脱色されない白土処理を行う」との記載を読めば、当業者において油が実質的に脱色されない限度にその処理時間を設定することは容易になし得るところと認められ、この設定された処理時間が種々の処理条件との関係で厳密に五ないし三〇分という範囲に入らない場合があつてもこの範囲に近い処理時間であろうことは本願明細書の記載から明らかであるから、被告の右主張は失当である。

3 右のとおり、本願発明と引用例記載の発明とは、その第一、第二工程において実質的に相違し、そのことにより第三工程の水蒸気蒸留に付する白土処理後の油の成分も自ら異なり、第三工程の温度条件に差異はないにしても、その処理の目的、その処理によつて奏される効果もまた相違することが明らかである。

4 以上のとおりであるから、本願発明が引用例記載の発明と同一であるとの審決の判断は誤つているといわざるを得ず、審決は違法として取消を免れない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編註〕 本願の特許請求の範囲は左のとおりである。

パーム核油、ヤシ油等などのパーム油類原油にリン酸を加えて攪拌処理する第一工程と、次にこの油とリン酸の混合物に白土を加え一〇〇度C前後の温度で前記の油が実質的に脱色されない白土処理を行う第二工程と、白土を除去した後、油を二〇〇~二七〇度Cの温度で過熱蒸気を吹込み減圧下に水蒸気精製を行つて脱酸、脱色、脱臭を行う第三工程との結合を特徴とするパーム油類原油の精製法。

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